9/26/2015

富田倫生さんの「パソコン創世記」を読んだ

「パソコン創世記」(1994)を読んだ。この本はすごい本だ。何がすごいと言って、二段組みであとがきまで453ページとボリュームがすごい。それを富田倫生氏が一人で書き下ろしている。 内容がまたすごい、膨大な文献や情報を引用しており、引用するだけでなく細かくノートをつけている。さらに 同じエピソードについて文献により矛盾がある場合、それを指摘している。たとえば、アスキーを興した西和彦が電話をかけて、ビル・ゲイツに会いに行き、 議論が白熱した件について、議論の長さが「8時間」と書かれているものがあるが、西氏に確認したところ3時間だったようだ、のように書いている。 富田氏は、文献をあたるだけでなく、実際に取材もされたらしい。

あとがきから富田氏の言葉を引用する。

「何の権利があって」となじる深夜の視線に貫かれながら、それでもお尋ねし続けたのは、私自身が何らかの狂気の虜となっていたからだ。ぶしつけな質問に耐え、心を揺らしながらそれでも私の狂気と付き合ってくださった方々に、ただただ頭を深く垂れてお礼とお詫びを申し上げます。
自分は富田氏にははるか遠く及ばないが、Amazonやネットオフなどで古書を探し、複数の図書館から本を借り続け、常時10冊近い本を手元に置いている。自分の自由になる時間の大半を情報収集と読書や調査に充てている。外出していて書店があると、文献を探す。当初は講演の参考資料集めだったものが、今は手段自体が目的化しており、「中毒のようだ」と思う。富田氏が「パソコン創世記」を書かれるに至った気持ちがわかる気がする。最近、同じようにパソコン創世記について、書かれた本を見つけた。脇英世氏の著作で、「スティーブ・ジョブズ」「ビル・ゲイツ」、その他にも関連するものがある。手にとりページをめくると、富田氏のように当時のことを執拗に(としか言いようがない)整理している。脇氏もまた、同じ病に取り憑かれているのかもしれない。

富田氏は、2013年に他界されているが、その作品のいくつかは青空文庫で読むことができる。一度会ってお話がしたかったと思うが、もうそれは叶わない。

  • http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person55.html

富田氏は、青空文庫の立ち上げと運営に尽力されていた。残されたブログの記事を読むと、TBSブリタニカから出版された「パソコン創世記」をめぐっては、いろいろ残念なことがあったようだ。だから富田さんとしては、「是非青空文庫で読んでください」と思われているかもしれない。

「パソコン創世記」の内容について、簡単に紹介しておくと、日本電気を中心に当時日本で起こった出来事が、きわめて詳細に、膨大なリファレンスとともに記載されている。PC-100について詳しく書かれたものは、メディアを問わず他では見たことがなかったし、日本電気が独自開発したBASICを持ちながら、マイクロソフトBASICのライセンスを受けるに至った経緯が書かれている。PCの黎明期について、海外の書籍を読んでもほとんどまったく日本のことは出てこない。唯一、「ケイ」と呼ばれマイクロソフトの副社長を勤めていた西和彦氏のエピソードがでてくるくらいだ。国内でもパーソナルコンピュータの可能性に気がつき、素晴らしい物作りをしていた技術者がいたことが、「パソコン創世記」を読むとわかる。しかし、それらは会社の壁から外には出てこなかった。TRONの坂村氏は、「海外では勝ち馬を作ろうとする。しかし、日本は勝ち馬に乗ろうとする」と文化の違いについて触れている。日本は、スタンダードを作ることができたが、できなかった。その歴史に学ばなければならない。

このブログに書いている記事は、以前は投稿ごとに参照している文献のリンクを置いていたが、どんどん調査の範囲が広がるので、面倒になり、今は省略している。その代わりに「参考情報」として、Aamazonへのリンクをまとめており、記事を読んで興味を持った人があれば、概要を確認したり、購入しやすいようにしている。参考情報は、いずれ作成年次順など分類しようと思っている。

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