9/16/2015

昔、日本には「国民機」があった

脇英世さんの「ビル・ゲイツの野望」がとても面白かったので、脇さんが書かれた本を調べて、新たに「パソコン世界の嵐」と「IBM 20世紀最後の戦略」を購入した。 「ビル・ゲイツの野望」にゲイツについて、他の書籍にはないことが多く書かれていて不思議に思っていたが、「パソコン世界の嵐」を読んで納得した。 脇さんは日本電気(にっぽんでんき)の高山取締役(当時)と一緒にゲイツと会ったり、パソコン黎明期の日本で日本電気はじめ各社の相談をされていたようだ。 「IBM 20世紀最後の戦略」にも、1990年に古川氏から頼まれ、ゲイツにインタビューを行ったときの様子が書かれている。

「パソコン世界の嵐」の刊行は1993年となっている。これは、まさに「パソコン世界の嵐」のまっただ中、これからどうなるかわからない、 言ってみれば途中の時期に書かれている。はっきり言うと古い内容になっているが、当時の世界がどう見えていたかという観点でとても興味深かった。

冒頭書いた、ゲイツとの面会は、高山取締役に「絶対何も発言しないように」という条件で、同行したもので、それは実は「OS/2を見捨てないで欲しい」という お願いで、その約束の証人としてだったということが後でわかる。 当時、日本はどんな状況だったかというと、「日本電気のPC9801がほぼ完全に国内のパソコン市場を掌握」していた。 PC9801は、「国民機」と呼ばれ、企業、大学、ほとんどあらゆるところで使われており、「毎月10万台が売られており」当時は誰もそれが続くと思っていた。 しかし、盤石と思われたその支配は、「日本で使われるPCには日本語版OSが必要」という前提が崩れ、今や日本電気は一メーカになってしまった。 当時を経験していない人には想像ができないと思う。 森が動いたのだ。

それにしても、と思う。高山氏が脇氏を同行してゲイツと直談判したのは、「トップ会談」ということだと思うけれども、いかにも日本的で、 ゲイツには不可解だったことだろう。「アイデア・マン」には、ゲイツが来日した際、「アレンとともにある日本の企業(おそらく」に接待を受けたことが 書かれている。ゲイツ達は「女性がいるところが良いか、美食が良いか」と聞かれ、アレンは「ゲイツは女性のいるところを希望するだろうと 思いながら、美食と回答した」と書いている。そして二人は、「6000ドルの夜食」をご馳走になり、ゲイツは「アレンに信じられるか?」とささやいたようだ。

NECが動かないと思っていた森を動かしたのは、OS特に日本語化、今日で言うところの「グローバル化」だ。 それについてトピックの一つとして追加しようと思う。

「パソコン世界の嵐」に、1992年11月9日に、日本電気が日本経済新聞に出した「意見広告」のことが書かれていた。 いろいろ探したが画像が見つからないので、本文を引用する。

「98は、問う。
日本で使うパソコンは、どうあるべきか。98は、事実をもってお答えします。

1. ソフトが少なくて、使えますか?
●98の事実 98ソフト 14,500本 (DOS/V日本語対応ソフト約800本)
      ソフト提供会社 3000社
      関連出版物 750冊
●98は、パソコンもソフトがなければただの箱と考えています。

2. サービス・メンテナンスが不安で使えますか。
●98の事実 全国展開のNECマイコンショップ 339店
      全国展開のNEC PIプラザ 422社
      全国展開のサービス拠点 379ヶ所
      全国展開のパソコンスクール 受講生年間4万人
●98は、サービス・メンテナンスも性能だと考えています。

3. 日本語が使いにくくて、平気ですか。
●98の事実 日本語ソフトの適した基本設計 FDD×2またはFDD×1+RAMドライブ
      高速日本語表示
      一貫したキーボードレイアウト
      カラー文化を支えるTFT液晶
●98は、右ハンドルパソコンであるべきだと考えています。

4. みんなに愛されているのは、なぜでしょう。
●98の事実 出荷累計 576万台
      国内メーカ別シェア 53.1%
      十年間徹底した資産継承
●98は、最新の技術で最大の満足を提供し続けます。

ありがとう十周年。これからも98。
NECグループ

「パソコン世界の嵐」は、1993年5月に刊行されている。当時の状況について、カバーに書かれた説明が参考になる。

天王山を迎えたパソコン戦争の内情に鋭く迫る。NECが過半を押さえる日本のパソコン市場に米国メーカ-が進出し、熾烈な低価格競争が始まっている。 ダウンサイジングの波に直撃されたIBMが史上最高の赤字を出すなど、コンピュータ業界は揺れに揺れている。パソコン戦争の明日を読む書き下ろし文庫。

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